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第 2 話

秘密のパン作り

[今回の書き手]森下想一さん
2012.10.01

やっぱりそばが好き。毎日食べても飽きません。
でも、作るならパンがイイ!
なぜかというと、微生物といっしょにパンを作ることが楽しいからです。
今、一人でパンを作っていますが、一人で作っている感じがしません。
つまり、僕は温度や湿度の気配りをして、
パン生地やその中の酵母菌たちが心地よく成長するのを見守っている仕事をしています。
そして、酵母菌などの微生物がパン生地を膨らませたり
味を変えたりしてうまく作ってくれます。
いやー、助かります。一人じゃないって素敵です。

生き物と暮らすのが好きです。
読谷に引っ越してから、たくさんの生き物を飼えるようになりました。
ウコッケイにチャーンにウサギにアヒルにロバまで。
嬉しい限りです。パン生地といるときも、動物たちといるときと似ていて
「元気かー?あれ、寒いかな?」と
何度も目で見て、指先でさわってパン生地の調子 を感じます。
沖縄の夏は、工房がサウナのように暑くなります。
そんな中、パン生地は驚くほど元気で、張りの強い生地に仕上がります。
手の中でポンポンと力強く感じられ、触っていて楽しいです。
しかし、たまに、どんなに待っても温めてみても
いっこうに膨らまないときもあります。
そんなときは、焦ります。
そして、ぺったんこのパンになってがっかりします。
これから寒くなってくると、工房にストーブを焚いて
ヤカンで蒸気を出してと、真夏の状態をつくります。
寒いままゆっくりゆっくり待つのも良いのでしょうが
どうしても夏のパン生地の元気よさを求めてしまいます。

パン生地が焼かれ、パンになると、押してもつぶれぬ固いものになります。
そこには、もとのパン生地に感じられた
「生き物だなー」というものはなくなり
今度はおおきな植物の「種」のように思えます。
さてここで、パンを焼くのは僕ではなく「石窯」です。
僕はちょうど良く焼かれたパンを窯から外に出す役目です。
窯は火を焚いたときの蓄熱でパンを焼きます。
火を消した窯は、静かですがすごい熱をためています。
窯の扉を閉めたとき、窯の中がこの世ではないような、不思議な感じがします。
もしかしたら扉を閉めたとたん
「どらえもん」ののびた君の机の中のように異次元になっているのでは、と。
微生物たちのたくさんの命をパンの中に閉じ込める
とんでもない装置なのでは、と思ったりします。
その証拠に、毎回窯の作業を終えた後は体がぐったりして
一度眠らないと次の仕事ができないくらい疲れます。

そんなこんなでパン作りは楽しいです。
いのちをまぜまぜして、様子を見守って、タネにかえる。
ちゃんとできていたらすごいことだなーと思います。
まー、いろいろと他力本願ですけれど。

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ロバの「わら」と

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水円は森のなかの静かなパン屋さん (撮影・青塚博太)

森下想一さん
森下想一Souichi Morishita

1978年茨城県生まれ。34歳。琉球大学法文学部卒業。「宗像堂」で6年間修業。2010年より読谷村で「パン屋水円」を始める。趣味はサーフィンと釣り。

次回の書き手は
辻佐知子さん

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