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第 9 話

女と師匠と女神様

[今回の書き手]宮城奈津子さん
2013.05.01

鞴(ふいご)の神様は女なので、女にはやきもちを焼くと言う。

代々男の仕事とされてきた金細工(かんぜーく)。
昔も今も
裸足であぐらをかき、汚れた着物に変形してつぶれた爪。
そんな彼らが作り出すものは
どんな女性も喜ぶキラキラ輝く美しい簪(かんざし)や指輪 。

やっぱりどの女性もそのギャップがたまらない、のかも。
かんぜーくの傍にはいつも鞴が寄り添っていた。

私の師匠は鞴の神様に愛され続けて250年
琉球王朝時代から続く「金細工またよし」の7代目です 。

そんなギャップ好きの女神様の嫉妬に耐え
私はこの工房でせっせと作り続け
はや5年。

初めて工房へ足を踏み入れたのは10年前。

沖縄の女性が愛したという美しい意味ある簪や指輪たちに
目を輝かせた20代前半の初々しい私。

が、10年もたつと、弟子の態度も変わるもので
師匠と呼ぶのもほんのたまに。ダメ出しはするわという困った弟子。
これが男と男の師弟関係だったらそうはいかなかったかもしれないけれど
私は自分がかんぜーくになるために!
というよりは、いろんな縁あってなんだか気づけばここにいる。

毎日同じものをつくり続けるこの工房で
10年前も今も
おばあにも近所の子どもにも毎日同じことを話し続ける師匠。
聞き流しているようで
いつのまにか身についた沖縄のこと。
工房を訪ねてくる人たちとのおもしろくありがたい出会いがある。

つい最近、もうすぐ83歳になる師匠が言っていた。

「こんだけ歳をとると いろんな欲がひとつずつなくなってくるよ」

でも、それとは反対に師匠の金細工に対する想いは年々
強くなっているようにみえる。
どんどん余分なものがなくなってシンプルに強くなる。

沖縄は大きな舟みたいだ。
小さな島の中でいろんな人がそれぞれ自分の役割を見つけ
みんなこの舟を大事に想っている。

強すぎる日差しも
はっとするような色や形の植物も
容赦なく降る雨も
沖縄の力強くて正直な自然が好きです。

まだまだ余分なものだらけの私。
私には大きな使命はないけれど
沖縄の自然に見習って何にでも正直に向き合い
自分ができること、自分らしい場所を
これからゆっくり見つけたいな。と思う。

ちなみに
鞴(ふいご)というのは、火に風を送る道具で
昔は金細工には欠かせないものだったけれど、
今はその役割を終えている。

工房の鞴も引退してお休み中。
これからは男も女もそうでない人も
うちなーんちゅもそうでない人も。きっと静かに見守ってくれる。
鞴の神様が大切に守ってきたものを大事に
いろんな形で広がって、つながっていけば、いいと思う。

83歳まであと50年
今まで生きてきたよりも長い時間を沖縄で過ごし
そのとき私にはどんな欲が残っているのか。
仕事。物欲。お金? それとも愛する人?
結局食欲とか。。。。
それはそれで、楽しみだ。

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かんぜーくと鞴(ふいご)

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お客様待ち

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工房から見える景色

宮城奈津子さん
宮城奈津子Natsuko Miyagi

1979年 愛知県生まれ。大学で金属工芸を学ぶ。
卒業後、職場で「金細工またよし」に出会い、たまにお手伝い。
結婚を機に沖縄に腰を据え
2008年より金細工またよしにて修業中。

次回の書き手は
新城圭吾さん

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