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原料から育てる、早瀬さんの藍染め

2024.04.24

自然に寄り添い 時間をかけて、丁寧に
生まれ育った今帰仁村で藍の栽培から染めまでする早瀬泉さんは、暮らしも豊かにデザインする。

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こちらは、2023年おきなわいちばVOL81「自然と暮らす」に掲載された記事です。

両親の畑を譲り受け 無農薬で藍を栽培
 沖縄に古くから伝わる染色技法の藍染め。原料となる琉球藍の産地として有名なのが、沖縄本島北部の本部町伊豆味だ。ここから車で10分ほどの距離にある今帰仁村諸志は、昔ながらの沖縄が残る緑豊かな場所。藍染め工房「亞人」を主宰する早瀬泉さんは、生まれ育ったこの地で琉球藍の栽培をしながら、藍染めの作品を制作している。

「以前は那覇に住んでいましたが、地元で子育てをしたかったので帰ってきました。そのタイミングで有機農業に興味があったこともあり、両親から畑を譲り受けました。何かを育てたいと思う一方で、ビジュアル的なアウトプットにも興味があり、その両方を叶えてくれるのが藍染めでした。元々、藍染めの色が好きでカッコ良いなぁって思っていて、せっかくやるなら藍を染めるだけではなく、原料の琉球藍を栽培するところから始めたかった。畑づくりからのチャレンジだったので時間はかかるとは思っていましたが、藍畑を広げるのに想像していた以上に苦労しましたね」

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 泥藍と呼ばれる藍染めの染料は、生産者から仕入れるのが一般的だが、早瀬さんは、無農薬、無化学肥料で琉球藍を栽培し、製藍、染色まで一貫して行っている。

「琉球藍の育て方は、栽培している農家さんから教えてもらいました。種植えではなく、挿し木で増やしていくのが基本で、始めの2、3年は染料を作る量の収穫ができなかった。野菜だったら実が付いて食べられるのでやる気もあがってくると思いますが、ただ株を増やしていくだけなので辛かったですね」と振り返る。しかし、根気よく続けていくうちに、10株からスタートした琉球藍は1年で1トンほどの量を収穫できるようになった。

「なんでもやりたがり屋さんで、続いた試しがなかったけど、藍染めだけは続けることができています。作家になりたいという気持ちよりも先に、琉球藍を栽培したいという気持ちが強かったのが良かったのかもしれませんね」

 琉球藍の収穫は5月から6月と10月から11月にかけての年に2回。直射日光に弱いため日陰を作って育てるという。害虫を駆除したり草を刈ったりと日々の仕事は多いが、「生きているって感じがして充実しています」と目を輝かせた。

地元の食材を使って 発酵食品を作る
 早瀬さんが生まれ育った今帰仁村に帰って来て、やがて7年が経つ。今は、京都出身の夫と二人の子どもとの4人暮らしだ。

「高校を卒業して東京で生活していた時期もあるので、那覇での暮らしも合わせると、9年くらい地元を離れていました。子どもの頃は家が農家だったこともあり、両親ともに忙しくて大変だった思い出のほうが強いけど、今は藍の栽培などを助けてもらって感謝しています」

 夫の道生さんも環境の変化に戸惑いながらも、医療関係の仕事に就きながら、ここでの暮らしを楽しんでいるという。

「ヤギを飼いたいって言い出したのは夫なので、お世話はお任せしています。近くを一緒に散歩したりして楽しんでますね。子どもの頃は気づかなかったけど、自然の中での暮らしは、人と動植物たちとの境界線が曖昧なのがいいところかなって思います。娘も庭や畑など遊び場が広がって喜んでいるようです。地元に戻ってきて娘だけではなく、自分自身も心に余裕が生まれたような気がします」

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 最近は、今までできなかったことへの意識が高まり、子どもたちに身体にいいものを食べてほしいと、調味料を厳選したり、時間をかけて自分で発酵食品を作るようにもなったそう。整理整頓された清潔感のあるキッチンには、早瀬さんが手作りした味噌やラッキョウ酢などの瓶が並んでいる。

「近所には畑や果樹園もあって食材は手に入りやすい。梅の実が収穫の時期を迎えるので、梅酒や梅干しを作りたいと思います」と話す早瀬さんは、リンゴやニンジン、長芋などで自家製酵母を使ったパンづくりも楽しんでいるという。

「酵母を作るのは時間もかかりますが、少し手間暇をかけるだけでこんなにおいしいパンが食べられるんですよね。藍染めの染料もそうですけど、植物の葉が身の回りに存在する微生物や有機物と混ざり合い、時間をかけて発酵することで染料となっていく。人間も有機物と考えれば、人間同士の繋がりによって、新しい可能性が生まれたりするのかもしれませんね」

藍染めの作品を通して 日々の暮らしも伝えたい
 早瀬さんは昨年、自宅の横に工房兼ギャラリーを開設した。

「ソファーや枕のカバーなど、暮らしの中で藍を楽しんでもらえるような藍染めの作品を作るように心がけていますが、正直やっていて怖いところもあります。栽培や染料を作っているときは相手がいなかったけれど、作品づくりは買ってくれる人のことを考えないといけないので、模索しながらいろいろ試しています。最近は布以外の作品にも挑戦しています」   

 大きな窓が印象的な開放感のあるギャラリーには、風呂敷や手ぬぐいのほか、樹皮を藍で染めた芸術的な作品なども並んでいる。

「布に染めるのも楽しいけれど、もっと身近にあるものに染められないかと考え、目に留まったのが樹皮でした。オセアニアやアフリカなどで作られているタパと呼ばれる樹皮布がありますが、それをヒントに飾って楽しめるような壁掛けや小物を作りました。今は樫の木の樹皮を使っていますが、表情がとっても豊かなんです。ほかの木も試してみたいですね。私は、生活も新しい物事を創造するためのクリエイションの一部だと思っています。日常が満たされていないと藍染めまで気がまわらないんです」

 子どもたちと一緒にヤギを連れて散歩したり、染めたばかりの生地を洗い流しに近所の海まで出かけたりと、何気ない日々の暮らしだが、都会ではできないことばかり。

「藍染めは、社会と私をつなげてくれる大切なツールでもあるんです。できればギャラリーまで足を運んでいただき、一緒にお話ししながら、ここでの暮らしの一部を肌で感じてもらえたらうれしいですね」

 藍の葉が有機物と混ざりあってプクプクと発酵して変化するように、早瀬さんもまた藍を通して人とつながることで、新しいモノを創り出していく。彼女が素敵にデザインした暮らし方から、教えてもらうことは多い。

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早瀬 泉
今帰仁村生まれ。40年間、有機農業を生業にしていた両親から2016年に畑を譲り受け、10株の苗から藍畑を始める。工房名の亞人は画家である祖父・酒井亞人の名前から。国籍にとらわれないで、亜細亜の人として文化をつなぎたいという想いが込められている。月に4日ほどギャラリーを開放している。
〈Instagram〉ajin.ryukyuindigo

おきなわいちばVOL81はこちらで購入できます
https://shop.okinawa-ichiba.jp/?pid=176815721

  • 文・ 編集部編集部
  • 写真・鬼丸昌範

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