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ハレの日だけじゃもったいない 普段の食卓に漆塗りのうつわ

2024.04.10

ONI95038.jpgのサムネイル画像こちらは、2023年おきなわいちばVOL80「沖縄のいいもの」に掲載された記事です。

いつもの料理がより映える 軽くて丈夫なのも漆の魅力
 ウルシノキという木の樹液を原料とし、接着剤や染料として使われてきた漆。日本では縄文時代には漆が使われていたという記録が残っていて、耐久性や加飾のしやすさから食器や装飾品など、さまざまなものに用いられている。木や紙に何度も重ね塗りすることで艶やかで美しく仕上がり、お正月やハレの日といったお祝い事のうつわにぴったりだ。

 その漆塗りをもっと気軽に使ってほしいと話すのは、那覇市で工房を構えるあさと木漆工房の安里昌樹さん。安里さんが作る漆塗りのうつわやカトラリーは、プロダクトっぽい洗練されたシャープさがありながらも木のぬくもりが感じられ、何より軽くて丈夫なのが特徴だ。
「木も打ちどころが悪いと割れるのですが、お客さんによく言うのは、漆塗りは値が張るけどお直ししながら一生使える。手入れも優しく洗ってやわらかい布で拭くだけ。自然乾燥させるとより長持ちしますよ」

 使うほどに味わいが増して経年変化も楽しめると安里さん。現在、作っているのは、皿や弁当箱、椀などのうつわに加えて、花器や燭台といった〝暮らしの道具〞と呼ばれるもの。そして、うつわ作りで心がけているのが「料理のじゃまをしない」こと。料理より目立つことなく、美しい背景となるよう務める。一見地味に見えるが、色がある料理をのせるとぐっと映えるのだ。

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 撮影が行われたのは、2月のとある日曜日。学校も休みだから、家族みんな大集合。だからこの日のテーマは、取り分けやすいものにした。出汁がしみた大根を焼き上げてステーキ風に仕上げ、一尺(30センチ)の大皿へ。また、「すごく簡単なの」と奥さんの真里恵さんおすすめのじゃがいものフレンチサラダは七寸皿に。末っ子の萌ちゃんがつまみ食いしたお稲荷さんは、黒の重箱へ詰められた。そして伊達巻は、彫り跡が見事な長角プレートへのせられ、料理が勢揃い。テーブル全体を見渡して「ちょっと渋すぎるかな」と心配そうな安里さんに「じゃあイチゴを添えようか」と真里恵さんがフォロー。完熟のイチゴが差し色となって、料理がより華やいだ。

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使うほどに愛着が増す 家族みたいなうつわを作る
 安里さんが木漆工の世界に入ったのは40歳のとき。「15年ほど会社勤めをしていたのですが、東日本大震災が起こり、生きたくても生きられない人がいる一方、
 本当にやりたいことをやらずに生きていてもいいのかとモヤモヤしながら過ごしていました」本当にやりたいのは、ものを作ること。中学3年生の時にお父さんが亡くなってしまい、長男として家族を支えようと板前になったが、バブルが弾けて職を失い、アルバイトで生活をつないだ。その後、企業に就職したものの、心のどこかではものづくりに対する思いが残っていたと振り返る。意を決して真里恵さんにものづくりがしたいと伝えると「やるならやりきって!」と背中を押されたそうだ。

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 安里さんの漆塗りは、木目を見せる拭き漆という技法が用いられる。「木目をしっかりと見せることで、木のものだとわかってもらいたい。漆を塗って、拭き上げてを繰り返して木目を浮き立たせる。回数を重ねるごとに木目の表情が変化し、その過程を見るのが楽しい。仕上ったときには美しさが増し、手を抜かなくてよかったと心から思います」
 いつもより工程を減らすとたくさん作れるが、仕上がりに満足しないと安里さん。何かが足りないと感じ、どこか自信のない作品となってしまうんだそう。「だからこそ時間がかかっても丁寧に作っています」
 安里さんのものづくりの根底にあるのは、家族のように長く愛されるうつわを作りたいという思い。「うつわの方が僕より長生きすると思うんです。大事に使えば、次の世代に受け継がれるかもしれない。また、使う人によって、いろいろな思い出ができるのもいいなと思っていて、子どもたちが小さい頃、この皿でよくカレーを食べたなぁとか、おじいちゃんが気に入って使っていたとか、うつわがきっかけとなってストーリーが生まれる。そう考えると、うつわって実は深いものなんですよね」

安里昌樹さん
大工だった父親の影響で小さい頃から木工が好きだったが、一度はものづくりを断念して企業へ就職。40歳で一念発起して工芸の道を志し、沖縄県工芸振興センター漆工科へ。修了後、2014年にあさと木漆工房を立ち上げ、現在に至る。

おきなわいちばVOL80はこちらで購入できます
https://shop.okinawa-ichiba.jp/?pid=175009620

  • 文・ 編集部編集部
  • 写真・鬼丸 昌範

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