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【月曜日のてしごと】藤本健さん

2023.07.03

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健さんと出会って、10年近く経つと思う。できたばかりの茶室のようなギャラリーで対面した木のうつわにガッツリ心を掴また。木の歪みやヒビもデザインとして捉えたうつわが、とっても自然な感じがして、素直に、「あっ、かっこいい」って思った。自然の美しさに手を加えない、その野性味ある躍動感にドキドキした。あれから10年。今もその美しさとカッコよさは変わることなく、作品を作り続けている。そんな健さんのスタイルに憧れてしまう。


◎おきなわいちば81号『沖縄のいいもの』掲載

意図していない、自然の力を活かしたものづくり

20代のときに家具職人を目指した藤本健さんは、より制約の少ない世界で自由に表現したいと考え、うつわづくりで新天地を切り拓いた。
「家具はつくる前にきっちり図面を引く必要がありますが、うつわならそこまで精密に測る必要はなく、自由度が高い。今でもそうですが、うつわをつくるときは事前にデザインは決めずに、手に入った木に合わせて、削りながらカタチを考えています」と藤本さん。木は外側からは中の状態がわからない場合が多く、削っている途中で割れていたり、虫食いの穴が見つかることもある。しかしそれもうつわの表情になると考え、そのまま活かすようにしているという。
「削った時に意図していなかったことが起きることは刺激的でおもしろいんです。もし割れていたとしても、紐で固定すれば使えますし、それが個性となる。スタンダードなカタチを作っていても、割れ目や穴があることでうつわに表情をもたらしてくれるので助かっています」と話す藤本さん。乾燥した木材ではなく、水分を多く含んだ生木を使用するのも同じ理由からだ。木は水分を含んでいる状態だと、時間の経過によって歪みが生まれるため、家具やうつわなどを作るときは乾燥した木材を使うのが一般的。しかし、藤本さんはこの「木が動く」特性も作品に活かしている。
「沖縄の木でいえば、アカギやガジュマルがよく動く。同じ木でも水分の量によって歪みの度合いは変わってくるので、自分ではコントロールできない。でもそこに魅力を感じます」
最近は、自然に委ねながらも、生漆と細かい土などを混ぜて作った錆漆(さびうるし)を塗り重ねるなど、うつわの新しい表情を引き出すための実験を繰り返しているという藤本さんのうつわは、使い込むことでさらに渋みが増し、ますます魅力的な表情をみせてくれる。

写真の説明
左奥は錆漆を塗り重ねたホルトノキのうつわ。ざらっとしたマットな質感が特徴。手前は生木のアカギを使って制作。時間の経過によって変形して歪んだフォルムが印象的。

Profile 
藤本健
愛知県生まれ、東京の木工所で働いた後、2002年に沖縄へ。家具を作る傍らカトラリーを制作。その後、より自由にものづくりをしたいと、南城市玉城に自身で工房を建て、うつわづくりを始める。アカギやホルトノキ、ガジュマルなど沖縄の木が持つ個性を活かし、洗練されたフォルムのうつわを制作している。

〈Instagram〉k.woodwork

  • 文・ 草々草々

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