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農家の人と育む、沖縄生まれのアートなビール

2021.07.06

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こちらは、2021年おきなわいちば VOL72「未来をつむぐ」に掲載された記事です。

写真:G-KEN 

デザイナーのクリフさんが始めた住宅街に佇む小さなブルワリーでは、サトウキビやマンゴー、カーブチーなど沖縄のおいしい食材を使ったビールを農家の人と語り合い、日々研究中。
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イギリスのビールを作るため、デザイナーから醸造家に転身
「文豪」や「キビといつまでも」、「HAPPY BLUE BOAR」といった、まるで映画か小説のタイトルのような言葉がビールの名前と聞けば、それだけでも興味をそそられてしまう。これらのクラフトビールを醸造しているのは、沖縄市比屋根に工房兼店舗を構える「クリフビール」の宮城クリフさんだ。漫画家を夢見ていたこともあるほど、子どもの頃から物語を考えるのが好きだったというクリフさんは、独特な感性でビールのテイストに合わせたストーリーを作り、ユーモアあふれる名前とイラストをラベルに描いている。

「例えば『文豪』は、香ばしいチョコレートとココアの香りが広がる黒ビールですが、バラの造形を愛する耽美主義の一人の小説家が頭に浮かびました。目の前に立つ女性のためにバラを選ぶのではなく、バラのために女性を選ぶ。それほどまでにバラに心を奪われた男の気持ちを表現したビールです」とクリフさん。話を聞いていて一瞬どんな味?と思ってしまったが、クリフさんの想像力に追いつこうと、深く考えているうちに、このビールにはまっている自分に気づいた。
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クリフさんは、醸造家というよりは、アーティストという肩書が似合っている。大学では経済を専攻。卒業後はデザインの仕事に携わっていたそうだが、29歳のときに興味があった現代アートを学ぶため、イギリスの芸術大学へ進学した。この決断がクリフさんの人生を大きく変えることに。ロンドンで7年間暮らしたクリフさんは、イギリス南西部のウェールズという地域に移リ住んだ。その街のパブで出合ったのが、イギリスの伝統的な製造法で作られた"リアルエール"と呼ばれるビールだった。

「イギリスでは昔から親しまれているビールです。日本のビールと比べると泡が少なく抜けた感じもありますが、それがイギリスのゆったりとした風土に合っていて好きになり、そこからビールにはまり、興味が湧きました。 ビール文化が根付くイギリスでは、家庭でビールを作る人もいます。一度、友達のお父さんが作ってくれたビールを飲んだら、とにかくまずかった(笑)。でもビールを自分で作れるということを知ったことで、頭の中の引き出しが開いたような気がしました」
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農家と連携して新作に取り組み、大麦の自家栽培にも挑戦
故郷の沖縄に戻ったクリフさんは、東京のブルワリーで研修を受け、ビール作りを研究。ホップ、ステップでいえば、ジャンプの段階になる3年目の今年は、農家と連携しながら、県産の野菜や果物を配合したビール作りに一層力を入れていくという。
「6月に販売予定なのが昨年好評だったコリアンダーとオレンジピールを使って作るベルギー生まれのベルジャンホワイトです。やんばる畑人(ハルサー)プロジェクトの芳野さんが育てたコリアンダーと、オレンジピールの代用として、本島北部で生産しているカーブチーを使って作るビールは、香りが強く、沖縄の地力を感じる味です」と目を輝かせて話すクリフさんは、すでに作った無農薬で育てた県産の小麦、サトウキビ、イチゴなどを配合したビール以外にも、薬草を使った新作にも挑戦していくという。作りたいものが見つかると即行動。クリフさんの行動力には頭が下がる。

「常にワクワクする気持ちを大切にしています。農家さんと協力して仕事ができるのもやりがいがあります」
そんな彼の姿勢に農家の人たちも共感し、一緒になってビール作りを楽しんでいるのが伝わってくる。
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クリフさんには、もうひとつ大きな夢がある。それは、ビールの材料には欠かせない大麦を自分の手で育てることだ。すでに読谷村の畑では、無農薬で野菜を育てている当真嗣平さんのサポートを受けながら、大麦を自家栽培している。
「今年ようやくですが、自分の畑で育てた大麦を麦芽にすることができました。どんな味に仕上るのか、楽しみですね」
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ものづくりの苦労や魅力を、ビールの醸造を通して伝えたい
クリフビールでは事前に連絡すれば、工場見学にも対応している。これは、材料を種から育てて、仕込み、瓶詰めまですべて手作業で行う一連の工程を、特に子どもたちに知ってほしいという思いからだ。

「今の子供たちは、ひとつの商品が作られるまでの過程を知らない。商品ができるまでには、様々な仕事があり、たくさんの人が関わっていることを、ビールの製造を通して子どもたちに教えてあげたい」と話すクリフさんの理想の姿は、海塩で有名なイギリスのマルドンの街にあった。
「マルドンでは魚屋、肉屋など小商いが元気で活気がありました。沖縄に戻って感じたのは、大型の商業施設が増えて便利になりましたが、以前は活気のあった商店街が元気を失っていたこと。小さなお店には、作る人の顔が見えたりと良さがある。沖縄で頑張る小商いの人たちと協力して、手作りの魅力を伝えていきたい」
大量には作れないが、質の高いものを作る人たちとのつながりを大切にし、子どもたちにもその魅力を伝えていきたいというクリフさんのビール作りは、まだ始まったばかり。醸造家でもあり、アーティストでもあるクリフさんが、どんなクリエイティブなビールを誕生させるのか。作家の新作を心待ちにしている気分で、新しいビールの完成を待ちたい。
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Cliff Beer
2019年に沖縄市比屋根にオープンしたブルワリー。麦芽の粉砕から仕込み、瓶詰めまですべて手作業で行っている。5種類の定番ビールのほか、旬の野菜や果実を使った期間限定ビールも醸造。新商品のリリースはSNSで発信される。

沖縄県沖縄市比屋根6-18-1
098-953-7237
〈Instagram〉cliff_beer

おきなわいちばVOL72を購入したい方はこちらへ
https://shop.okinawa-ichiba.jp/?pid=160524430

  • 文・ 草々草々

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