1. TOP
  2. いろいろ取材記事 / 日々のこと / ざっし
  3. 音と歩む、ドラマーの中村亮さん

音と歩む、ドラマーの中村亮さん

2024.02.13

12268543_10154378029677738_2137905321_o.jpg

おきなわいちば83号「夜と朝の時間」で、「夜と朝に聴いている音楽」を教えてくれたドラマーで作曲家の中村亮(あきら)さん。幼少期から音楽に親しみ、ジャズやロックなどのコンテンポラリー音楽を専門とするバークリー音楽大学に入学。その後、ロサンゼルスやニューヨーク、ベルリン、東京などで音楽活動を経て、現在は沖縄を拠点に作曲や演奏、音楽イベントのプロデューサーを手がけるなど、多岐に渡って活動している。

 中村さんが教えてくれたお気に入りの音楽は、どれも彼が尊敬するアーティストの作品で、頭の中を巡る思考をリセットして、今ここに生きているということを感じさせてくれる、大切な存在なのだという。

 そんな中村さんは、昨年ソロプロジェクト「akira.drums」をスタートさせ、8月にデビューアルバムをリリースした。作曲、楽器演奏、レコーディング、編集を全て自分で行った初めての1枚だ。
 中村さんの作曲の仕方はとてもユニーク。友人との何気ない会話や映画鑑賞など、感情が動いた瞬間に、ふと頭の中にメロディーが浮かぶのだという。
「曲を"作る"というよりは、すでにそこにあって、僕だけに聞こえている音を譜面に落とし込んでいく感覚なんです。90%は降りてきた音を紡いでいき、10%は自分のエッセンスを加える。このバランスが結構重要で、時々、エゴが強く出ちゃうことがあるのですが、やっぱりそういう時の仕上がりは納得いくものにならないんですよね(笑)」。

 今までに170曲近く作曲してきた中村さんだが、今回のアルバムはこれまでで一番素の状態で取り組めたという。
「これまでの作曲は主にバンドの曲が多く、ベースやギター、サックスなどいろいろなパートのことを考えて作っていたんです。でも今回は全て自分自身だけで完結させるもの。不思議と何も気負うことなく、力を抜いて最後まで作ることができて、なんだかすごく幸せな時間でしたね」。
 中村さんの曲は、ドラムのビートがリズミカルに響くものから、優しくゆったりと心に沁みてくるものなど、表現の幅が広く、言葉にできない惹き込まれるなにかがある。

DSC_1707のコピー.jpg

 過去に多くのステージを経験してきた中村さんだが、全てが順風満帆というわけではなかった。
「東京に移住して、いろんな会場でドラマーとしてジョインしていた頃、苦しかった時期があって。ステージ上に演奏者が何人かいて、一人ひとりが間違いのない演奏をしているんだけど、まるでそれぞれが電話ボックスの中に入っているかのように孤立しているように感じたんです。みんなで演奏しているはずなのに、すごく孤独で」。
 演奏する喜びを感じられず悶々とした日々を送っていた中村さんにヒントを差し伸べてくれたのが、大学時代の恩師だった。
「メンバーがどんな背景を持ってそこに立っているのか心を傾けたことはあるか?って言われて、ハッとしたんです。そんな風に考えたことは今までなかった。それから、少しずつ周りと調和して演奏する感覚を感じられるようになったんです」。
 中村さんにとって、音楽は、その場にいる人や空間、時間、そこにある全てとの繋がりを体感するものなのだ。
「何のためにステージに立つのか。それは難しい曲を上手に演奏するためなんかじゃない。その先にあるところに目標を持っていないといけないって思うんです。心をオープンにして、自分がありのままでいることで、現場の一体感が生まれるはず。僕たち人間は毎日毎日頭で考えてばっかりでしょ?いろんな思考を解き放って、心のままにいさせてくれるのが音楽だったり、芸術の力だと思うんです」。

 中村さんは海外や東京での活動を経て、2019年に沖縄に拠点を移した。
「学生の頃から、沖縄に貢献したいという気持ちがあるんです。いつか沖縄にアジアの音楽学校を作ることも目標の一つ。でも今思うのは、ただ僕が僕らしく輝いて、アーティストとしてやりたいことにひたむきに向き合っていくことが大事なんじゃないかな。それがいつか沖縄や社会に役立つことにつながるんじゃないかって思うんです。今までドラマーとしてアーティストのライブをサポートする仕事が多かったけれど、これからはもっと個人としての表現も追求していきたい。今はとにかく自分のやりたいと思う演奏や、制作に力を入れていきたいです」。

 来る4月、akira.drumsのアルバム「we have only one season」をテーマにしたライブを沖縄で開催する。演奏の音に反応して変化するオーディオリアクティブの仕組みを活かしたグラフィック映像も制作するなど、本番に向けて粛々と準備を進めている。

 これから中村さんはどんな音楽の世界を繰り広げていくのだろう。彼の音楽へのまっすぐで純粋な心が、聴く人に寄り添い、今日もどこかで誰かの心に響いている。

13235999464_2bd81a1b5d_b.jpg


ーーーーーーーーーーーーーー
中村 亮(なかむら あきら)
沖縄県出身のドラマー、作曲家で、演奏活動や音楽イベントのディレクターを行う。2007年に沖縄で結成したグループ「Element of the Moment」の作曲も手掛けた。
昨年8月には「akira.drums」としてのデビューアルバム「we have only one season」をリリース。
※apple mugicでも配信中

akira Nakamura ウェブサイト https://www.akira-drums.com/
〈Instagram〉akira.drums

  • 文・ てるてるてるてる

おすすめ記事

ページトップへ