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おうち時間を楽しむ3冊の本(草々編)

2020.05.26

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東京で生活していた頃、本は電車に乗るときの必須アイテムでした。取材先までの電車での移動が1時間かかるとわかれば、むしろワクワクしたのを覚えています。電車のない沖縄で暮らすようになってからは、あの幸せな時間はなくなってしまいましたが、ビーチの木陰に寝転がって読んだりと、東京では味わえない贅沢な読書時間を楽しんでいます。

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ということで、今回は、自分が好きな3冊を紹介します。まず1冊目は、クライマーでもあり、ジャーナリストでもあるジョン・クラカワーが執筆した「空へ」。この本は、1996年に起きたエヴェレストの遭難事故を題材にしたルポルタージュです。世界最高峰の山でなぜ12名の命が奪われたのか。その現場に居合わせた著者だからこそ書ける事実が、装飾することなく淡々と書き綴られています。
 実は自分も学生時代、山に登っていました。南アルプスを2週間以上かけて縦走した経験もあります。一度標高2500m付近で、かなり強めの雨と風に煽られ、肝を冷やしたことがありました。雨が上からではなく横から打ち付けてきて、強風で後輩の荷物の一部が、崖から落ちてしまいました。岩にしがみつきながら前に進み、ようやく難を抜けたときに思ったのは、後輩が怪我をしなくて良かったという安堵の気持ちと、反省でした。登山を中断して下山するという勇気も大切だと感じました。頂上を前にすると誰もが、「登頂したい」という欲が出てきます。この本には、頂きを前にしたクライマーたちの心の葛藤もリアルに描かれており、ページをめくるにつれてどんどん引き込まれ、そして、自然の怖さと偉大さを教えてくれます。

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2冊目は、沖縄を題材にした本から。「ナミイ!八重山のおばあの歌物語」です。ナミィおばあこと、新城浪さんが三線と歌とともに歩んできた人生を姜信子さんが丁寧にまとめたドキュメントです。石垣島で生まれ、9歳のときに親元を離れた浪さんの人生は、決して楽なものではありませんでした。しかし、どんな辛いときも、歌うことで心を奮い立たせてきました。彼女の歌声は、周りを幸せにさせる魔法の言葉のようでした。なぜそう思うのかといえば、実は、14年前に、浪さんの歌を、石垣島のご自宅で聴かせてもらったことがあるからです。「桑港のチャイナタウン」という曲でした。まだ沖縄に来たばかりの頃で、三線の曲を聴いた経験はほとんどない自分でしたが、やわらかい音色にのせた歌声はじんわりと心に染み、心を動かされました。浪さんは楽譜を使いません。弾きたい曲があれば、メロディーは耳で覚え、歌詞は紙に書き留めているそうです。隙間なくカタカナの文字が埋め尽くされた歌詞が書かれた紙は、浪さんにとっては楽譜代わりの大切なもの。本誌には、彼女が書き留めた歌詞もたくさん出てくるので、ぜひチェックしてみてください。

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最後は、アントニオ・ロペスの画集です。たまたま本屋さんで見つけた一冊ですが、その絵のタッチに心を掴まれました。スペインのラ・マンチャ地方に生まれたアントニオ・ロペスは、絵画、彫刻の分野でリアリズムを追求してきた作家です。自分は、古びた建築物や朽ちた壁などが好きで、よく写真に撮っていました。フィルムで撮影したようなレトロな風合いも好みなのですが、アントニオ・ロペスが描いたマドリードの街並みがまさに好みの色やタッチで描写されていました。建物以外にも、バルコニーや冷蔵庫の中、トイレや窓など、さりげない日常の風景を切り取った絵も魅力的で写真とは違った世界に引き込まれます。

  • 文・ 草々草々

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