古くて新しい、「桂子さんのはんちゅみ」

2020.09.14

沖縄に古くから伝わる「はんちゅみ」は、豚肉と鰹節を煮込んだ肉でんぶのこと。琉球時代の宮廷料理のひとつとして振舞われたといういわれがあるけれど、今ではその存在を知っている人は数少ないのだそう。

そんなはんちゅみの魅力に惚れ、20年近く作り続けてきた石𣘺桂子さんが、「味の伝承 石𣘺屋」としてこの9月に「桂子さんのはんちゅみ」の販売をはじめた。

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桂子さんがはんちゅみと出会ったのは、娘さんから贈られた琉球料理のレシピ本がきっかけ。当時宮城県で調理師の資格を活かし独居高齢者のために弁当を作っていた桂子さんは、沖縄料理に興味を持ち、お弁当作りにも活かすようになったそう。中でも興味を持ったのは、豚肉料理。「沖縄には、豚肉の部位別に用途があってそれぞれの特徴を活かした料理がありますよね。中でも、グーヤヌジという豚の腕(前足)の付け根を使って作るはんちゅみは、いったいどんな味がするんだろうってすごく気になったんです。昔、沖縄では貴重な食材だった豚肉。『泣き声以外は全て食べる』というように、希少な部位や扱いにくい部位だってどれも丁寧に調理して美味しく仕立てる。そんな沖縄の豚肉料理の文化は素晴らしいと思う」。



のちに沖縄に移住した桂子さんは、「沖縄の食を考える会」の友利知子先生に、祖母から教わったというはんちゅみのレシピを伝授してもらったそう。「グーヤヌジには、脂や筋が細かく入っているので、それを一つひとつ取り除きながら小さく角切りに。肉が硬くならないように気をつけて沸騰させたあとのお湯で洗い、昆布や椎茸などでとった出汁でゆでる。圧力をかけ、鰹節やしょうゆ、泡盛などでコトコトと煮てから、ひとつひとつ肉をほぐしていく。とても時間がかかりますが、いくつもの工程をそうやって手間をかけて作ったらすっごくおいしくて。はんちゅみの魅力にどんどんはまっていったんです」。



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桂子さんの作るはんちゅみは、鰹油の味付けがベースになっている昔ながらの「醤油」と、オリジナルの「塩」、「味噌」の3種類。

「醤油」は、鰹節や出汁の香りが豚肉の旨味を引き立て、どこか懐かしさを感じる味わい。「塩」と「味噌」は沖縄移住後、ドイツやアメリカに渡って数年間住んでいた時期に作られた。ドイツで出会った豚肉料理「リレッテス」をヒントに生まれた「塩」は、白ワインやオリーブオイルが使われており、ローリエなどのハーブとピパーツの香りが効いたお酒に合うおいしさだ。クリームチーズと混ぜたり、クラッカーや焼いたパンにもぴったり。アメリカに住んでいた頃生まれた「味噌」は、ごま油やにんにくの香りがほのかに香り、焼き豆腐に乗せたり、ヘチマの味噌煮にしてもおいしい。




沖縄に戻ってからは、沖縄の風土や気候に合うようにと、できるだけ沖縄産の食材で作るように。「塩、黒糖、ピパーツ、島にんにくと、沖縄は自然の恵みを受けた調味料や食材が豊富。その土地で生まれた食材で作るから、もっとおいしくなるのよ」。

桂子さんの作ったはんちゅみを食べて、沖縄出身でも初めてその存在を知ったという人がとても多いそう。「あるとき、『忘れ去られた沖縄の料理を作ってくれてありがとう』と言ってもらったことがとても嬉しくて。私にできることは何か考えたときに、はんちゅみを通して、昔沖縄の人たちが手間ひまをかけて作ってきた料理の素晴らしさを伝えられたらいいなと思ったの」。キラキラとした笑顔でそう語ってくれた。




  • 文・ てるてるてるてる
  • 写真・平良 信実

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